●歌集「花筐」(はながたみ)/S41より
世のすべてここに終るやさりげなく破顔一笑息たえたまふ
大き息いま絶えたまふ朝にして冴え返るなり鶯鳴くも
今ぞ死なす君がかがとに垢ぎれのあな痛々し五分ほど血吹ける
冴えかへり心も凍るあかつきに君死にたまひ時すぎむとす
白き綿口に塞ぎて眠らすは数時間まへ語りし夫(つま)なる
思ひ出といふ言の葉のそらぞらしわが胸いつぱいに君は生けるに
わが家に君亡きことのみ変りはてて返らぬ日数とほく流れき
わがなやみ雨は知れるや夜な夜なに降れればいとどなぐさむものを
亡ききみに書きしたよりに宛名せず枕にしきて眠る旅の夜
うれしといふ言の葉ふたつわれにあり今宵の夢ときみ思ふこと
手をとればさつと消にけり人の世を忘れしきみかかなしまなざし
起きいでてまづうれしきは花ぞのに葉もみなぬれていとし花ばな
木瓜さくら連翹(れんぎょう)すみれみな咲きて君に見せたき庭のおもむき
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